どこから来たのか小指にも満たない小さな蜘蛛が部屋に入ってきた。だいたいこういうときはせっせと外に逃がすのだが、このときはやけに面倒くさく感じたのでいっそのこと同居することにした。昔から蜘蛛のあの見てくれがかなり苦手ではあったのだが、それ以上になんだか一歩も動きたくなかった。そんな夜は誰しもあるだろう。ということで、少しでもフレンドリーに感じられるようにクックと名付けた。
とはいえ放置することでクックに巣を作られるのもなんか嫌だ。しかし調べてみるとクックはハエトリグモといって、巣を作らないスタイルの蜘蛛だった。無知だったこともあり、巣を作らない蜘蛛がいることすら知らなかったので、驚いた。自分の足で動いて家中の獲物 (害虫) を食いまくってくれる神のような蜘蛛であった。実際、唯一神が食事されているお姿も拝見した。
調べてみると昼行性らしい。光に反応するのか、朝起きてカーテンを開けるとどこからともなくひょっこり出てきたりするので、「おはよう」と言ってしまったりするくらい、いつの間にかクックには心を開いていた。
そんなこんなで一週間ほどしたころ、姿が見えなくなった。「家に餌がなくなるとひっそりと出ていく」という記事をどこかで見て、そりゃ生きるために当然だよなと思いつつもどこか寂しい気がしなくもない。とはいえやっぱり蜘蛛は苦手なので、戻ってきてほしいわけでもない。なんなんだ、この気持ち。
ハエトリグモの世界が思ったよりも深く、ハンドブックが刊行されていた。作者さんはハエトリグモが好きすぎてフリーターになったらしい。マツコの知らない世界にでてきそうだ。
昔から馴染み深いクモだったため、江戸の時代から愛されていたらしい。それにしても羽を切って動きを制限させるなどなかなかハードコアな遊びをやっていたものだ。自分も子供のころは「トンボの羽をちぎる」「カマキリに消しゴムを食わせて死なせる」など無自覚に非情なことをやってきていたが、いい大人でもやっちゃうのが江戸スタイル。
座敷鷹 また江戸時代の一時期(寛文から享保頃)には、ハエトリグモを「座敷鷹」と呼んで、蝿を捕らせる遊びが流行した。これは大人の遊びで、翅をやや切って動きを制限したハエを獲物とし、複数のハエトリグモにそれを狩り競わせるというものだった。 ... 強いクモは非常に高価で、当時の江戸町人の平均的な月収に相当したという。 ハエトリグモ - Wikipedia (← クモの写真いっぱいあるよ)
クモをひと月分の給料で買う時代があったとは。